第2章 ep.01 憎むべき存在
フリント
「生きろ、リディア!」
フリントの強い声が響くと、再び振りかぶったノムの刃で首を斬られるのを目を瞑って待っていたリディアの目が開き、彼の両手を掴みそのまま横へと投げ飛ばす
ノム
「なっ…!」
いきなりの事で驚いたノムは受け身もとれずに雑草の上に転がる。
ゆっくりと立ち上がるリディアの白かったワンピースは心臓から赤が柄を作っていた
リディア
「フリントの意地悪」
フリント
「はっ、俺が死ぬ事を許さねぇの知ってんだろ」
焦った表情をしていたフリントの顔が安堵の笑みに塗り変わった。
心臓を刺されたにも関わらずリディアは、唇の端から溢れた血を手の甲で拭いながら普通に会話をしている
ノムが言っていた通り、吸血鬼は心臓を刺した所で死んだりしない。
吸血鬼を殺したいのであれば首と心臓を刺さなければならないのだ。
ヴィンス
「そこまでだ、ノム」
空き地にヴィンスの低く尖った声が響いた。
三人がそちらに顔を向けると無表情のヴィンスと眠た気な目を僅かにつり上げたミフウが立っていた
転がっていたノムは立ち上り短剣を腰に戻しながら歩いてくる二人を見ていた。
ヴィンス
「あまり勝手な事をするな」
ノム
「……っ……悪い」
ヴィンスの威圧感にノムは言い返す事もせずに奥歯を噛み締めながら謝った
フリント
「リディア…!」
全員がノムを見ていたが、身体が崩れるリディアを見て慌てたように声をあげたフリントの方へ視線が向く。
すると、気を失ったリディアをフリントが抱き上げていた
ミフウ
「傷はもう塞がってるみたいだね」
フリント
「嗚呼。緊張と貧血で倒れたみてぇだ」
ヴィンス
「悪かったね、フリント」
フリント
「俺に言うな」
リディアから視線を外さずにフリントは言う。
ミフウの言った通りリディアの刺された穴は既に塞がっている。
吸血をするともう少し治癒効果は上がるものの、今回はそんな時間が無かった
ミフウ
「医務室に運ぼう」
フリント
「嗚呼」
彼女の言葉にフリントは頷くとリディアを抱え直して地下へと全員で戻った