第4章 鍛錬と最終選別
ひとしきり泣いた後は身動ぎせず、魂が抜けたように視線を空にさ迷わせていた更紗だったが、ゴソゴソと動き出し、自身の右後ろにある杏寿郎の顔を見ようと少し顔をそちらに向けた。
「どうした?」
それだけで優しさが伝わってくるような、いつもより少し低めの声に心地良さを感じた更紗は僅かに頬を桃色に染めながら、先程より後ろに体を預けた。
「杏寿郎さん、ありがとうございます。あの、このままお話しを聞いていただいてもよろしいですか?」
(先程の話しの重さとくらべて、なんて小さな願いだろうか……)
そんな小さな願いを足蹴にする訳もなく、鍛錬を重ね皮膚の厚くなった手を握りしめる。
「あぁ、聞かせてくれ」
「私、今でもやっぱり悲しいですし、どうしてこんな事にって思います。でも、私は今生きていて、こうして杏寿郎さんがそばにいてくださいます。あの場所にいた時は、ずっと両親と過ごしていた日に戻りたい、過去をやり直したいって思っていたんです」
1度言葉を切ると、幼子が親に甘えるように更紗は自身の頬を杏寿郎の腕にスリッと擦り寄せる。
「うん」
「両親には会いたいですが、今は戻りたいとは思わないんです。きっと過去に戻っても、同じ事を繰り返します。だって、あの時約束事を破らなければ、杏寿郎さんと会えないですから」