第4章 鍛錬と最終選別
「杏……寿郎さん、すみません、もう少しで落ち着くので、あとちょっとだけ……このままでいさせてもらえますか?」
手で涙を抑えているが、もちろんそれで全てが抑えられる訳もなく、杏寿郎の隊服の袖部分をゆっくりと濡らしていく。
それを見ていると杏寿郎自身も辛く、悲しい気持ちになっていく。
「好きなだけいればいい。だが、このままの体勢だと更紗が辛いだろうから」
杏寿郎は1度更紗を少し離し、両膝を立ててその間に空間を作るとそこに更紗をすっぽりおさめ、後ろから抱きしめ直す。
「もたれてもいい、落ち着くまで待っている。だから焦らずゆっくりしなさい」
そう言われて堪えていたものが決壊したのか、僅かだが嗚咽を漏らして泣き出してしまった。
後ろから抱きしめてやるしか出来ない事に不甲斐なさを感じ、杏寿郎は胸が軋むような痛みを感じた。
(あの屋敷の者達を救えなかった事がよかったと思う俺は、柱として失格なのだろうか……今の状況であの者達が鬼に襲われていたとしても、救いたいと思えるだろうか)
柱としての責務と個人の感情の均衡は難しい。
考えても答えが出るものでもないので、杏寿郎はただただ更紗の気持ちが少しでも穏やかになれるようにと、ほんの少しだけ抱きしめる力を強めながら心の中で祈った。