第4章 鍛錬と最終選別
(あぁ……愛らしいな……)
そう思うと無意識に顔を隠している更紗の両手をゆっくり外しており、再び視線を合わせていた。
いまだに更紗の顔は真っ赤で、羞恥の念からか少し瞳が潤んでいる。
その顔の横に垂れている後れ毛をひと房掌で掬い取ると、更紗には通じないが見る人が見れば好いているのだろうと分かる表情で見つめる。
「杏寿郎さん?」
「君は何事にも懸命で、純粋で優しく人を思いやれる、俺の尊敬出来るお姫様だ」
一瞬何を言われてるのか分からず困惑したが、頭の中で杏寿郎の言葉を反芻して一気に更紗の顔に熱が篭ってきて、先程よりも更に赤くなっていった。
「あまり、からかわないでください」
「俺は人を笑ったりからかったりしない。さぁ、道場も綺麗になった事だ、風呂に入って夕餉まで少し休憩するといい」
そう言って杏寿郎は立ち上がり1人道場を出て行く。
置いてけぼりの更紗は両頬を抑えて熱が引くのを待ってから家へと歩き出す。
一方、先を歩く杏寿郎。
「いかん、あと少しで伝えてしまうところだった」
十分、普通の女子であったらいかんのだが、相手が更紗だった事により事なきを得て早足で自分の部屋へと急ぐ。