第7章 夢は、まぼろし?
楓とのセックスに避妊具を使用したことは無かった。それまでの性生活で習慣付いたものだった。
初めて抱いた時には泣かれたが、それもすぐに彼女は慣れた。
示唆的な夢だった。
もし出来たら?
気にするな、何とかなる。
そういう会話を以前した時、彼女は寂しそうとも悲しいとも言えない表情をした。深い話はしなかったが子供は欲しくないのだと思い、セックスは危ない時だけ避けた。
もし出来れば産めばいい。育てさせられるくらいの甲斐性はさすがにある。そう思っていたが口に出した事はない。
もし夢の女が楓なら、本当は子供が欲しかった?自分がおざなりな反応をしたから、悲しい表情をしたのだろうか。根拠のない想像がいくらでも膨らむ。
今日の夜に会って、何かあったか聞いてみるか。心境の変化でもなんでも。何もなければそれでいい。
狂児は自分が少し、高揚しているのを感じていた。胸とは別に胃の辺りが疼く。それは子供の頃から知っている感覚だ。お気に入りの漫画雑誌やゲームの発売日や、ギャンブルの結果が出るまでの高揚感。そしてそれは良くも悪くもない。
もし楓が妊娠していたら、自分は嬉しいのだろうか。それとも楓が喜ぶところが見たいのだろうか。その時自分は嬉しいと思えるのか、分からない。
自分が父親になる想像をしたことはあるが、実感したことは一度もない。一生そういう日が来ることはないと、決めつけて生きてきた。
だがその想像が不意に夢という形で、色が付き、実体化しかけている。