第7章 夢は、まぼろし?
狂児はふと目が覚めた。肩と首が痛む。
時間を確認する。AM5:34。
最近買い換えたばかりの椅子から立ち上がり、両手でゴシゴシと顔を擦る。
3時過ぎに事務所から自室に戻り、ジャケットを脱いでネクタイを外し、応接室の椅子に座って休んでいたらそのままうたた寝していたようだ。ここのところ、若頭が新しい親となり新組織を発足するにあたり補佐の狂児はあちこちに駆り出されるようになり、体も心も休まることがない。自室に帰って寝れるだけでも良い。
「シャワーだけでも浴びよか……」
体を動かすと全身から強烈にヤニの匂いがした。事務所に缶詰で事務処理をしているがタバコの量が増える。外注させてくれよ、と思うが何しろ機密情報も多く、幹部でないと扱えないものばかりなのだ。
息を大きく吸って脳細胞に新鮮な酸素を取り込む。そして違和感があった。狂児は自分の鎖骨下あたりに手を当てた。
胸が軽く痛む。寝不足が続くと時たまあることだったが、その痛みとは何かが違う。場所は似通っていたが、どこか懐かしい痛みだった。
「……?」
寝起きで働かない頭で痛みの理由を考える。
胸がもやつくが、何故か悪くはない気分だ。
そわそわするのでとりあえずタバコを一本吸い、気分を落ち着けることにした。
コーヒーの飲み過ぎか?
よくあることだがカフェインの副作用を疑った。
火をつけて大きく吸い、長く煙を吐き出したところで、脳内が活性し、うたた寝している間に夢を見ていたことを思い出した。唐突に。