第4章 いとしくて、かなしい 2
(お腹痛い……)
激しく突かれたから、ではなく声を出しすぎたり、力を入れたりしたせいのようだ。顔の筋肉も少し痛い。最中にどんな顔をしていたのか恐ろしくなった。
楓は気だるい体を押して動かし、キッチンへ向かうと冷蔵庫を開けて、ペットボトルの水を一本取り出した。
後ろからぺたぺた、と音がして裸の狂児が近づいてくる。
「俺も」
もう一本ペットボトルを取り出して渡す。楓は水を飲んで、少し喉を潤わせてから、セックス後初めて口を開いた。そうでなければ声ががらついて恥ずかしかった。
「髪、ぼさぼさです」
「楓ちゃんも」
ふふ、はは、とどちらともなくわらう。狂児は片手で楓の髪を優しく梳かし始める。楓はそうしやすいように顎を引いて頭を寄せた。
「なかなかええ時間になっとったな」
「私シャワーしてちょっとだけ寝ます……」
狂児はこのまま泊まっていくつもりだろう。楓は手にしたペットボトルをシンク横に置いた。
「ええ匂いやな、それ」
「え?」
狂児が体を屈めて、楓の首筋に鼻を寄せた。
さっきまで濃厚な触れ合いをしていたのに、突然距離を詰められると、狂児の圧の強さに心臓が跳ね上がる。
「香水、変えたんやろ」
「そうです…ハイ」
狂児は「俺好きやわ、この匂い」それだけ言うと、踵を返してベッドに戻って潜り込んだ。
楓はふう、と一息吐いてシャワーに向かった。
『あ……腕の刺青のこと、詳しく聞くの忘れてた……まあ、長くなりそうやし今度でええか……』
髪をまとめて、楓はバスルームのドアを開けた。