第2章 こわさと、やさしさ
もしかして狂児はわざと聞かせていた?やけにいやらしいことを言うなと違和感を持ったのも思い出した。
「なに?」
自分の顔をじっと見つめる楓を、狂児は不思議そうに見返してくる。
「狂児さん……あいつに、聞かせたかったんですか……?」
狂児は黙ってタバコを取り出し、口に咥える。楓は慌ててライターを取りに行き火をつけようとしたが、狂児はそれを制して自分のジッポで点けた。チタン製のそれはきぃん、と心地の良い音を立てる。
一息吸って大きく煙を吐き出す。
「俺の楓ちゃんに手ェ出すなんて、どう言うことかこれからキッッッチリ叩き込まなあかんな」
こわぁ。
楓は改めて狂児の職業について思いを馳せた。
おそらく男は事務所に連れ込まれ、これから一生飼い殺しにされるのだろう。
楓は深く考えないようにした。
狂児にあまり悪いことをして欲しくない。それが本音だったが、楓が言えるようなことでもない。
男たちがストーカーを連れて出て行った後、狂児は立ち上がってキッチンへ行き、タバコを消した。
「何食べたい?」