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恋、つまり、まばたき(R18)【カラオケ行こ!】

第2章 こわさと、やさしさ


再び隣に腰を下ろした狂児はネクタイも性急な手つきで緩めて外し、ソファの後ろに放り投げた。

「……怖い目に遭うたもんな」

楓の腰に手を回し、体を抱き寄せて前髪の生え際にキスを落とす。

「狂児さんも、怖かったです……」
「ごめんな」

俺はそういう仕事やねん。
そう囁くと、楓の顔を、顎の下に優しく手を添えて上向かせ、唇にキスをした。唇、目尻、頬。
それからまた、唇。
男の急襲から目まぐるしく変わりつづける状況に楓の心拍数が上がりっぱなしだったが、狂児の優しい愛撫が楓の感情を包み、ようやく凪を迎える。

「狂児さん……」

怖いけど、いつもいきなり来て困らせるけど、変態やけど、この人のこういうところが好き。離れられへん。
胸の中が、愛おしい気持ちでいっぱいになる。

狂児はいつも何かにつけて好きだ、とか心を溶かすような甘いことを事細かく言ってくれるが本気で愛してくれているわけではないのはうぶな楓にも分かっている。
そして楓自身は本気で狂児のことを好きになってしまっている。好きになったって辛いだけの相手なのに。
それでも、体だけのつながりでも、恋人同士の真似事でもいい。彼が求めてくれるなら、全て渡したい。

再びインターホンが鳴る。鍵が開けっ放しなのをあらかじめ伝えていたのか、ガチャ、とドアが開く音がする。

「おぉ、コイツか」
「成田さん?あぁ、いらっしゃった。遅なりました、すんません」

狂児の部下が2人、どやどやと入ってくる。
まだ若いが、それなりに気合の入った身なりをしている。

「おお、頼むわ。あとそこのテーブルな、それもアイツがやったらしいから片付けといたって」

ゴミ袋にどさどさ、と料理とケーキの箱が捨てられる。胸が痛んで、楓は目を逸らした。
狂児はそれを察して、楓の頭を撫でて自分の肩にもたれ掛けさせる。

テーブルの上に物がなくなり、床に落ちたものも粗方片付けられた。拭き掃除は後で楓がする、と告げると男たちは狼藉者と向き合った。

「コイツなんで勃起してんねん」
「変態ちゃうか」

玄関近くから聞こえてくる声に、楓は先ほどまでの狂児とのやりとりを思い出した。ドアを閉めていなかったから当然廊下まで、あの時の声も聞かれていただろう。
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