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恋、つまり、まばたき(R18)【カラオケ行こ!】

第2章 こわさと、やさしさ



夜、部屋に戻り、楓は久し振りに心を込めて料理をした。狂児の好きなもの、それだけを作る。楽しい時間だった。
帰る前に有名なパティスリーのケーキも買った。一度、彼が買ってきて一緒に食べた事がある。彼は覚えてくれているだろうか。その装飾が特別に繊細でカラフルできらきらと可愛らしいケーキは、1個1000円近くもし、夜の世界でも差し入れとして人気があるようだった。ミニチュアの世界のようで、食べるのがもったいないと目を輝かせた楓を見て、狂児はかわいいなあ、と目を細めていた。
見た目によらず甘党で下戸の彼の方こそを、可愛いと思ったことはあるがそれを口に出したことはない。
二人で食事をして、甘いデザートを食べ、シャワーを浴びて、それから……それがいつもの楓の部屋でのお決まりのコースだった。


楓は彼に初めて出会ったときのことを思い出していた。

母親のスナックを手伝うようになって、お世話になっている方だと紹介された男性二人組。
それがその筋の人たちだと知ったのは数年後だった。母親は彼らの職業について知らなかったと言っていたけど、おそらく彼らに借金をしていて、それをどう返済しようかと彼らに相談している姿を見たことがある。
狂児はその時から、楓に目をつけていたようだ。
普通の客として訪れるようになり、酒は飲まずにカウンターでタバコとノンアルコールのドリンクを嗜む。車で来ているから、と言っていたがのちに下戸だと知った。
狂児の人との距離の詰め方は才能だと思った。いつも同じ席に座り、他の常連ともすぐに打ち解け、備え付けのカラオケで低い美声を武器に盛り上がる。酔客のトラブルも、彼が居れば解決してくれた。いつしか彼が訪れる日を、その時間を、楽しみにするようになった頃、彼は営業時間になる少し前に店に訪れ、

「俺の女にならん?」

楓と二人きりの雑談の合間に突然、そう言われた。これまで酔っている客に、その手の冗談とも本気ともつかない戯言を投げかけられることはあったが、狂児はしらふで、表情は柔和に微笑んでいたがその目は真剣だった。

楓は返事を待ってもらい、三日後に狂児が店に訪れた時に、狂児からの申し出を受け入れた。

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