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恋、つまり、まばたき(R18)【カラオケ行こ!】

第2章 こわさと、やさしさ


狂児から与えられたマンションに住むようになり、彼に何をすれば良いのか間抜けにも尋ねたことがある。
「俺の彼女ってことやで、普通にしたらええ。そんなしゃちほこばんなや」と笑って言われて少し安堵した。
だが彼のいうことをそのまま字面通り受け取る気は流石になかった。
彼から金銭を受け取るようになり、小遣いだと笑って言っていたがその額に慣れることはなく、楓はそれを狂児に対して還元するようにしていた。マッサージや料理など思いつく限りの「奉仕」に役立つことを習い、それから美容皮膚科にも通い、見た目に気を使うようになった。全て彼のために。それは今も変わっていない。

狂児はそんな楓のことを「真面目やなあ」とだけ言い、愛でてくれた。


『でも、明日は平日なんよね……私起きられるかなあ』

テーブルに料理を並べて、彼がいつ来てもいいようにメイクを直す。
アラームを今から、5分刻みで5個セットする。5個で間に合うだろうか。そんなことを考えていたら、部屋のチャイムが鳴った。
楓は急いで出迎えに行く。逸る気持ちを押さえて鍵を開けた。

「おかえりなさいっ……えっ」
「楓」

ドアを開けるとそこに立っていたのは狂児ではなかった。どうしてドアスコープで確認しなかったのか、一瞬で後悔した。
男は以前通っていたスポーツジムの知り合いで、告白され、断ったがそれから付きまとわれるようになった。ゴミを荒らされ、ポストにいたずらされたり、散々に迷惑をかけられた。
半年前にストーカーと認定され、楓の側には近寄らない、と誓約書に署名をしたはずなのに。
そいつが半笑いでそこに立っていた。

ドアを閉めようとしたが男は隙間から手を差し入れ、一気に半身を滑り込ませてきた。

「嫌や、何で!?」

エントランスの自動ドアの解除キーをこいつが知っているわけがない。他の住人が戻って来るときに一緒に入ってきたのか。

楓はドアを閉めるのを諦め、スマホに飛びついた。
警察。
カバーを開いて、電話の画面を開く前に男が抱きついてきた。楓の腕を掴んで、スマホを落とされる。

「離して!!帰ってよ!!」

あとは見込みは薄いが、大声を出して、周りの住人に伝えるしかない。でもそれはこの男を下手に刺激しかねない、諸刃の剣だ。
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