第6章 血濡れた面
山に入る。周囲に警戒しながら東へすすむ。
山中を進む中で、剣士たちの叫び声や刀を振る音が聞こえた。美雲もいつ鬼に襲われるか分からない状況に緊張が高まる。
しかし、1日目の夜。
美雲は鬼に遭遇しなかった。日中は万が一に備えて日向で休息をとる。片時も刀を離さない。
鬼と遭遇しなかったこと、運が良かったと素直に思うことにした。しかし、今晩は分からない。長い夜に何があるか。もしかしたら、明日の朝日を見ることはないかもしれない。死と隣り合わせとはこういうことかと実感する。
2日目の夜。
美雲はまだ鬼に遭遇しない。鬼の数が少ないのか、と考える。しかし、時折すれ違う剣士たちはみな憔悴した表情を浮かべている。
3日目。
鬼に遭わない。遭遇しないに越したことはないが、流石に何か違和感を感じる。
またどこかで刀を振るう音がする。戦況は分からないが、音がする方へ助太刀に向かう。
美雲より年上の少年が鬼と戦っていた。圧倒的に押されているわけではないが、少年の傷は深く、衣服から血が滴っている。止血出来ておらず失血の危険がありそうだ。
美雲が前に出る。その姿を見た少年が声を荒げる。
「構うな!!これくらい1人で大丈夫だ!!女の助けなど要らない!!」
声を荒げると、その勢いで衣服についた血が飛び散る。
「あぁあぁ、美味そうな血だぜぇぇえ」
鬼がジュルジュルと涎を垂らす。獲物を欲するギラついた視線を少年を捉えている。そして、美雲へも視線を移す。
「女も美味そうだなぁぁ。」
美雲を見ていた目に段々と恐怖の色が宿る。その大きな体をガクガクと振るわせ始める。
「…お前ぇ、鬼なのかぁぁ?強い鬼だ…怖い…怖い、怖いぃぃぃ!!!」
ギリギリと耳を塞ぎたくなるような歯軋りの音がする。
鬼の視線は美雲の頭についている狐の面に釘付けだった。美雲が一歩近づこうとすれば、鬼は血相を変えて山の奥へ逃げていった。