第6章 血濡れた面
なおも攻撃を続ける美雲の背後にするりと回る。急な接近に驚いた隙に刀を奪う。驚く美雲の顔が近くに見える。
動きが止まった美雲の頭に先ほどの狐の面をふわりとつけてあげる。きつくないように、そっと紐を結ぶ。
「ほかの男から貰ったものをつけてるのは気に入らないけど、俺の匂いをたっぷりつけたから返してあげる。」
美雲には触れることもできない童磨の動き。
刀も簡単に奪われ、美雲は立ち尽くしていた。
「鬼狩りになるっていうのはいただけないけど、美雲が挑戦したいことならとめないよ。また必ず迎えにくるからね。美雲の方から会いたくなったらいつでも呼んで。」
へらへらと笑いながら話す童磨。美雲の攻撃など全く刃が立たなかった。
強い風が吹いて、砂埃が舞う。美雲が視線を戻した時には、童磨の姿をなくなっていた。代わりに奪われた美雲の刀だけその場に残されていた。
美雲はその刀を鞘に収める。
目の前にいた鬼を仕留めれなかったことが悔しかった。これまで鍛錬積んできたが全然通用しなかった。まだまだ力が足りない。
これから最終選別に向かうというのに、すでにぶつかってしまった壁にたじろぐ。
あの日助けを求めて鬼の手を握りかけてしまった自分。あのままついて行っていたらと思うと恐ろしくて身が震えた。
立ち止まっている暇はない。こうしている間にも救いを求めている人がいる。救いを求めた手を鬼よりも早く掴み、助け出す。
(…童磨の首も必ず斬る。)
目の前の最終選別は通過点に過ぎない。その先を見据える。もっと早く力をつけなければ。藤襲山に向かって走り出した。
頭にのる狐の面の傷が赤黒く怪しく光った。