第6章 血濡れた面
「…違うよ?」
本当は俺が鬼にした。息を吐くように嘘をつく。
だってどうせ真実を伝えたところで、仇だなんだって泣くだけなんだから。俺に都合のいいように解釈してくれればいい。
手元に置いておきたいのに憎まれ役じゃ面倒だ。
「…私はみんなを鬼から助ける。鬼殺隊に入る。」
美雲は構えた刀を俺に向けてくる。
「やめときなよ。君じゃ俺を倒せない。」
美雲との間合いを詰める。振ってきた刀を扇で簡単に止める。
近づく距離。からかうように美雲の顔を覗き込む。かわいい顔に触れようとすると、即座に離れようとする。離れていく美雲に手を伸ばす。頭につけていた狐の面をスッと取る。
「…ほかの男から貰ったもの身に付けてちゃ駄目だよ。」
面を持つ手に力を少し入れれば、ピシッと半分に割れる。
美雲は言葉も出せずに呆然と面を見つめている。
「…返して。」
小さな声だった。
「え?」
聞き返す。
「返して!!」
そう叫ぶと美雲は刀を構え迫ってくる。感情に任せた攻撃かと思えば、しっかりと冷静に斬りかかってくる。それなりに鍛錬してきたのだと伝わる。
だが所詮は人間。ましてや女の力。上弦の俺には通用しない。美雲の攻撃を簡単に受け流す。
「まあまあ、そんな怒らないでよ。ちゃんと返すから。」
先ほど割った面の断面を舌で舐める。鋭くなっていた断面で舌が切れる。
血が面を伝い、ポタポタと地面に落ちる。
割れた面をくっつける、ふぅ、と息を吹きかければ血は凍り、面はくっついた。縦一本の赤黒い傷がある狐の面となった。