第5章 呼吸
「…美雲が義勇の真似をしているのはすぐ分かった。そのままでは俺には勝てない。義勇の動きなど嫌と言うほど身に刷り込まれてる。だが所詮は真似事。義勇には到底及ばない。真似をするな、美雲だけの刃を見せろ。」
錆兎はそう言うと、美雲の頭をポンポンと撫でた。
美雲は、その優しい手をそっと掴む。
「…私だけの刃って?」
「誰よりも鍛錬を重ねて来ただろう。それはすぐそこにある。美雲が気付いていないだけだ。」
錆兎の表情は穏やかだった。美雲を励ますような、なだめるようなそんな優しい顔だ。手を掴む美雲のことを振り払ったりしなかった。
「今までの努力は無駄じゃない。また明日な、美雲。」
美雲の手からすり抜けるように錆兎が離れる。いつものように森に消えていく。
真菰も美雲の背中を少しさすった後、錆兎が消えていった方向を追いかけていった。
ひとりになる。辺りはすっかり陽の光を失い、冷たい風が吹き始めている。
(私だけの刃…)
どこか落ち着いている心で考える。
食事を食べている時に鱗滝さんに声を掛けられたが、美雲は生返事だった。心配そうに顔を伺われて、慌てて誤魔化した。