第5章 呼吸
(誰かの真似…)
錆兎と真菰に言われたことを考える。
実践の経験などないのだから、教わったことがそのままになるのは仕方ないことではないかと思った。
その翌日から鱗滝さんは稽古をつけてくれなくなった。
1人で朝から晩まで稽古をする。夕暮れ近くになると、錆兎と真菰が現れる。来る日も来る日も刀を交わらせた。
キンッ、キンッ。
初めて錆兎と会った日のように一方的に押されることは減った。しかし、美雲の次の動きが分かってるかのように錆兎は攻撃をひらりとかわしてくる。
押されてはいないが、いなされているだけの感覚に腹が立つ。全然刃が立たない。攻撃できていない焦りを必死に落ち着かせる。
流れるように技を出せ。呼吸を乱すな。もっと鋭く刀を振れ。
自分に繰り返す。
もっと、もっと、もっと_________
自分に影が重なる。
あの日、母と私を救ってくれた彼の影だ。
「自分の刃を振えと言っただろう!!!」
錆兎の激しい叱責に、影を感じていた意識が急に戻される。次の瞬間、刀はまた弾かれ、美雲の手の中から飛んでいった。
「真似などするな!!自分の意思で動くんだ!!」
自分の意思で動いている。誰かに動かされているわけではない。
美雲は黙りこんだ。
その様子を見兼ねた錆兎が語気を少し緩めて言葉を続ける。
「美雲が自分に誰かを重ねる限り、俺には勝てない。」
美雲は返事をしない。
「美雲が理想としている姿は過去だ。それがどんなに強くても過去なんだ。美雲がどれだけ進んでも、生きている者には誰にでも同じだけ時間が流れてる。みんな進んでるんだ。誰かの真似をしていては一生お前は弱いままだ。"義勇"は今この時もお前の何倍も何倍も進んでいる。」
自分が追いかけていた"影"の正体を口にした錆兎を凝視する。