第5章 呼吸
「勘はいいと認めよう。…だがそれだけでは駄目だ!誰かの真似ではなく自分の刃を振るえ!!!」
少年が先ほどより速い速度で迫ってくる。
避け切れない、そう思った瞬間にすでに自分の刀は弾き飛ばされ少し離れた地面に刺さった。
息が止まりそうだった。少年の刃が自分の首すれすれにある。
「…真似をしているうちはそれ以上の成長はないぞ。自分で考えて、自分の意思で動け。」
そう言うと少年は森に消えていく。
「…ま、待って」
呼び止める声は木々の音にかき消される。
「美雲、すごいねぇ!錆兎とやり合える剣士なんて久しぶりに見たよ。しかもそれが女の子なんて。すごいすごい!」
どこからともなく現れた女の子に顔を覗き込まれる。少年と似た狐の面を頭に付けている。
「さっきから誰なの…次から次へと。あなたはだれ?彼は知り合いなの?」
怒涛の出来事に頭がついていかず混乱する。
「私は真菰。さっきいたのは錆兎。うーん、仲間みたいなものかな。
みんな鱗滝さんが大好きでここにいるの。」
鱗滝さん。知っている名前が出て少し冷静になった。敵意などない真菰の様子に緊張も少しずつほぐれる。
「錆兎も真菰も剣士なの?…錆兎、すごい強かった。」
「そうだよ。美雲の動きもすごいよかったよ。なんかもう1人の錆兎を見てるみたいだった。もちろん強さは全然及ばないけど(笑)…なんて言うのかな動きが良く似てる。ずっと一緒に鍛錬してきた相手みたいな…。」
真菰は変わった雰囲気を持っていた。空気に溶け込んでいるような、よそ見をしたらどこかに居なくなってしまいそうだった。