第5章 呼吸
美雲は毎日毎日鍛錬に明け暮れた。
体はしんどかったが、鍛錬を重ねるたびに、それに身体が答えてくれるのが嬉しかった。日々できることが増える。自分の身体を自分自身が隅々までコントロールする。今までの自分ではないと実感できた。
今日からは刀を使った鍛錬が始まった。初めて持つ刀は思っていた以上に重く感じた。
ズシリと感じるその重さに、そこにかかる責任の重さを重ねる。
(…鬼を倒す。人々を守るために。)
まずは素振りからだった。刀を振る。かかる遠心力に刀が手から抜けそうになる。
「しっかり握れ。そんなことでどうする!」
鱗滝さんから厳しい声が飛ぶ。
刀を握りなおして振る。ブンッ、ブンッ。刀が空気を斬る音がする。違うこんな音じゃない。
美雲は刀を振り続ける。
ブンッ、ブンッ。
…もっと、もっと。空気の抵抗を感じるような音じゃない。
もっと、空気を断ち切るような。
刀を握る手に力が籠る。
美雲が”集中”の世界に入り込む。その姿を見た鱗滝はため息をつく。
(…こうなったら誰の声も届かん)
その場を後にする。
美雲が見せる集中力。自分の世界に没頭し、力を追求する。
鍛錬をはじめて明らかとなった、彼女の長所でもあり短所ともなりうる力だった。
(…もう少しコントロールする必要はあるな)
だが練習熱心な美雲のことだ。その課題も自分で克服するだろう。彼女は優秀な教え子だ。