第3章 旅立ち
狭霧山は遠いが、持っていく荷物など何もない。すぐにでも発つことが出来る。
覚悟を決めた美雲の心は、早くこの町を出たがっている。なんだろう、すごくドキドキする。はやる心をおさえる。
「…行ってしまうの?」
先ほどまで話していた青年が声を掛けてくる。
美雲は無言で頷いた。
「…さみしくなるな。僕の足がこんなじゃなかったら美雲を守ってあげられたかな…。」
青年が俯いて、自身の足をこぶしで叩く。
「自分が情けないよ。…そうだ、これを返しておくね。」
青年が渡してきたのは、”あの日” けが人の一人に持たせた2つの鈴がついたかんざしだった。青年と目が合う。彼の目は赤くなっているように見えた。
「これ…持っててもらっていいですよ。そんないいものでもないけど。」
そう言うと、彼はかぶりをふった。