第3章 旅立ち
「これを鳴らしても、もう君はここに来てくれないんだろう?…君が前に進むなら、僕も進みたい。これは返す。」
彼の意志は固いようだった。かんざしを受け取る。
チリン。聞き慣れた音だったが聞いたのは久しぶりだった。懐かしい気持ちになった。かんざしを胸元にしまう。
「…じゃあ行きます。お二人ともお元気で。」
老人と青年の下を離れる。振り返ることはしなかった。
盛り上がる宴会。ひしめきあう人々と飛び交う言葉の間を抜けていく。誰も美雲に気付いていない。もう二度と戻ってくることのないだろう少女の小さな背中を見ていたのは二人だけだ。
扉を閉める。灯りと声が漏れ出るが、辺りは静かになった。
外はヒンヤリとしていて、頭上にはいくつもの星が輝く。美雲は深呼吸をする。
これから何がしたいのかははっきりしていない。
しかし”町を出る”、自分の望みを素直に聞き入れることにした。こころは軽い。
町から一歩、一歩と離れていく。
美雲を止めるものはなにもない。自由に、自分の思うように進んでいこう。
胸元でチリンと音がする。両親が笑ってくれている気がした。