第3章 旅立ち
「…え??お父さんが鬼狩り??鬼狩りって??」
「おいおい。なんも知らんのかい。お前の父はな、鬼狩りをしていた。鬼狩りっつうのは鬼を退治するやつのことだ。なんとかっていう組織にいたけど、あんまり大々的に活動してわけじゃなかったら名前は忘れてしまった。政府非公認って言ってたからなぁ。」
ぼさぼさに伸びたひげを触りながら老人は話を続ける。
昔を思い出しながら、話しているようだった。
「町に鬼が出ようものなら、お前の父が出てきて、刀一本で鬼を退治した。おかげで町は平和だったよ。
結婚をするときに引退したようだったが、詳しい理由は教えてくれなかった。彼が亡くなって、いつかまた鬼が来るんじゃねぇかとは思ってたが…。」
老人が壁をぼーっと見つめる。
あの日のことを思い出していただろう老人は美雲を見ると我に返るように話の内容を変えた。
「…話は戻るが、親父は狭霧山に通いこんでた。朝出て、翌朝帰ってくる頃もあれば、長い間帰ってこないときもあった。何をしていたのかは知らない。だが師がいると話していたから、鍛錬でもしてたんだろうよ。」
あぁ、これからもこうやってあの日の事には触れないように気を遣われるんだなと思った。町の腫れものは私だ。
町を出よう、そう決意する。
ありがたいことに私の知らない父の痕跡を教えてもらった。何がしたいかなんてわからなかったが、父がどんな人生を歩んでいたのかをたどるのも悪くない。
「…行ってみようかな。教えてくれてありがとう。」
お礼を言う。急に現実味を帯びてきた旅立ち。
大切な家族はもういない。美雲がこの町に居続ける理由はない。
「あぁ。自由になるんだ美雲。こんな狭い世界にいる必要はない。お前が苦しみから解放されるのを死んだ両親も願っているだろうよ。」
老人が笑ってくれる。