第3章 旅立ち
彼の声が響いた後、静寂が訪れる。
静寂に耐えられない。俯く美雲はどんどん小さくなるようだった。
私がこんなところに居ちゃいけない、そう思い部屋を出ようと体に力を入れたときだった。
「…そうだな!変な雰囲気にしてすまんかった!」
「気持ちも入れ替えてこそ町の復興だな!」
「ほらほら、祝いの席だ!みんなで楽しもう!ここに居るもの誰も欠けちゃいけねえ!この顔ぶれだったからここまでやってこれたんだ!」
ちらほらと声が上がり、部屋はまた活気を取り戻した。
美雲のそばにいた人たちが肩をポンポンと叩く。
「あんたが悪いわけじゃないからね。みんなわかってるから。」
そう声を掛けてくれる。美雲はようやく顔を前に向けることができた。
宴会は盛り上がる。人々の声も大きくなる。
その中で美雲の気持ちは沈んでいくばかりだった。
”この町に居ていいのか”ずっと考えてもやもやが、どんどんと大きくなる。
私を気にかけてくれたみんなの言葉が嘘だとは思わない。
だけど、母の話が出た時のあの空気感。やはり"母"が暴れて多くの犠牲が出たことを分かっている。町の人々にとっては思い出したくもないことだろう。辛い過去を乗り越えるなんて並大抵のことではない。
私がいるとその出来事は過去のことにはならない。私の顔を見るたびチラつくんじゃないだろうか。
私がいると、あの惨事を過去のことにして乗り越えていくことが出来ないんじゃないかと考える。
祝いの席で暗い顔をしてちゃいけない。ましてや美雲がそんな顔をしてたら、みんなにまた気を遣わせてしまう。
顔をあげる。ふと目があった。さっき雰囲気を立て直してくれた青年だ。彼は美雲をずっと見ていたようだ。
腰を上げて彼のもとへ向かった。