第2章 消えた雨粒
〜〜〜【童磨side】
新しい信者開拓に何となくふらっと寄った町。
そこで期待以上の出会いがあった。美雲という名の娘だ。
美雲は悩みを持っているようだった。そういう時は、寄り添えばいいと分かっている。なにに苦しんでるかなんて正直どうだってよかった。この世に天国のような楽園なんてないのだから。
いつも通りの誘い文句を言えば、ほら、美雲は俺の手を握ってついて来ている。
人間なんてつくづく馬鹿な生き物だ。他人に助けを求めるなんて。
俺に助けを求めてきたときの顔は、とても綺麗で思わず見惚れた。
有り難いことに、美雲は"鬼"というものを知らなかった。呑気なものだと呆れるが、俺には都合がいい。
そばに置いていても、親切な教祖と慕われるだけだ。
この無垢な娘をそばに置いて、その成長を見たくなった。言うことを聞かなくなって、反発するようになったら食べてしまえばいい。
ああ、楽しみができた、なんて少しワクワクした。
手を引き歩く。
その手が止まる。急に止まるもんだから手が離れた。
振り返って美雲を見る。
美雲は遠くに見える町を見ていた。俺も同じ方向を見る。
(ああ、さっきの子が早速暴れてるのか)
どうでも良かった。俺の関心はいま他にある。さっきまで手の中にあったものだ。
もう一度繋ごうとした時には、既に美雲は町に向かって走り出していた。
「美雲ッ!!」
名前を呼んでも振り返ることなく、行ってしまった。
伸ばしていた童磨の手が何も掴めずに寂しげに残る。
(…困った子だなぁ)
思い通りにならないのも悪くない、と笑う。
(…言うことを聞かせたくなっちゃうよ)
町が一望できる木へ飛ぶ。胡座をかき、頬杖をつく。
(…高見の見物といきますか)