第2章 消えた雨粒
「富岡さん…。今日の事本当に感謝します。母の最期がつらいものじゃなくてよかった…。恩は忘れません。」
面と向かってお礼を伝えてくる娘。
「恩などいらない。自分がやるべきことをしたまでだ。」
鬼殺隊として鬼を斬る。当たり前のことだ。
誰かに感謝されるためにやっていることではない。鬼を滅ぼす理由は仇を討つため。結局は自分のためだ。
「鬼はたくさんいるんでしょうか」
娘は構わず質問をしてくる。
「今こうしている間も鬼は増える。そして、鬼に襲われる人々も増えている。」
「鬼はいなくならないのですか」
「鬼を滅するために俺は刀を振るっている。」
娘は口を閉じて、言葉を反芻させているようだった。
鬼について無知であった自分を悔いているのかもしれない。鬼を知らない世界でぬくぬくと生きていたことは悪いことではない。
しかし、厳しい現実の欠片を見たのであれば、見てないふりをするのは無責任だ。娘のように現実を知ろうとすることは必要なことだと思った。だから質問に答える。
しかし今は任務中であり、鬼についてすべて伝える時間はない。
「山向こうで鬼が出ていると聞いている。俺はそこへ向かう。死者の弔いを手伝えないこと、申し訳なく思う。」
話をそこで終わらせる。
(…あとは自分で前に進め)
心で娘の今後が報われるように祈る。挫けることのないように。
義勇はまた任務地に向かって足を動かすのであった。
(…あ。自分は名乗ったのに、名前聞き忘れた。)
義勇は頭をポリポリを触った。しかし、足を向ける方向は変わらない。