第2章 消えた雨粒
蔦が捉えていた鬼も、義勇の間合いにいた。蔦が消えていくと同時に地面に降りる。
その鬼にもはや闘気は感じられなかった。ただ、遠くを見つめて佇んでいる。
その姿を見つめている娘と鬼の目が合う。見つめ合っている2人は、母と子の表情だった。
2人は少しの間見つめ合うと、"母"はこちらを向いた。
義勇に向き合い、凛と立つ。逃げる意思など微塵もない。
その思いを汲み取る。
「 水の呼吸 伍ノ型 干天の慈雨 」
"母"の首が飛ぶ。
その光景を娘が目に焼き付けるように見つめる。瞳は涙でいっぱいだった。それでも娘は目を開き、母が消える最期まで逸らすことはなかった。
優しく、優しく、微笑む母の姿。
それは、娘の成長を感じて笑っているように見えた。
「…ありがとうございました」
娘に礼を言われる。義勇はすでに他のことを考えていた。
「…ああ」
娘の礼に生返事をする。確かめるように娘を目を向ける。
(先ほどの血鬼術はやはりこの娘のものではない。娘は人間だ。)
そう思い、娘から視線を外した。周囲を確認する。
(やはりあの時同様、この付近から鬼の気配は感じられない。…すでにここにはいないか。)
「…あの、よろしければお名前を」
娘から問われる。逃げた鬼と娘が繋がっている可能性を考える。
しかし、義勇を見つめる瞳は偽りなど見えない。本当に名前を聞きたいのだろう。
「…富岡義勇だ」