第2章 消えた雨粒
「、、、ッ、私には母の死を決められません、、、」
娘はそう答えた。絶望の中で判断を迫られることは辛いことであろう。ましてや、家族を失うということは耐え難いことだ。その事は、俺も身を持って知っている。
家族の生死を選択するのであれば、俺は己の死を選ぶだろう。だが、いま自分の死を選ぶと、この世に鬼を残すことになるのだ。
選ぶのは母の死、"鬼の死"しかない。
娘には辛い選択をさせようとしてしまったと目を逸らす。逸らしたのは、娘の大きな瞳は涙で潤んでいるのが見えたからだ。こぼれる涙は視界にいれないようにする。
「…恨むなら母を鬼にされたことを恨め。」
屋根から降り、鬼と対峙する。
鬼殺隊として成すべきことを果たすまでだ。
呼吸を整える。そして、刀を構えた____
ズザザザザザザ、ザザッ
娘が屋根から降りてくる。さっきまで絶望し、涙を流していた者とは思えない豪快な動きだった。思わず目を見張る。
「…母を殺さないで」
彼女は母の"生"を選んだ。
しかし、母が鬼である限り、その暴走を抑えられない限り、"生"の道はないのだ。初めから、答えは決まっていたのだ。
"鬼の死"しか道はない。
けたたましい唸りを上げた”鬼”が娘に襲い掛かる。
義勇も動き出していたが、娘と鬼の方が圧倒的に近い距離にいる。