第17章 芽生え -恋と蛇-
「えぇ〜!違うの?てっきりそうだと思ってたわ!それとも無自覚さんかしら!」
「甘露路、これは無自覚なやつだろう。」
そう話しながら甘露路は「うーん」と頭を悩ませた。そして率直な質問を美雲へ投げかける。
「…美雲ちゃん、冨岡さんのことどう思ってるの?」
「それは…強くて憧れますし、恩人なので力になりたいと思ってます。」
「そうね、じゃあそばにいたい!とか離れたくない!とかは思わない?」
「…そばにいたいと思います。離れたくない、とは考えたことないですね…。」
甘露路はさらに「うーん」と考えている様子だった。やがて諦めた様子を見せた、、
「あの顔は間違いないと思ったんだけどなぁ〜!私もまだまだね。」
拗ねたように口を尖らす甘露路の代わりに言葉を続けたのは伊黒であった。
「白石は全てを犠牲にしてもいいと思える相手がいるか?」
伊黒は金に光る目をスッと美雲に向けてきた。左右で色の違う目は、全てを見透かしているような錯覚を受ける。
目は美雲に向けられていたが、伊黒がいま思い浮かべているのは美雲を通り越した先にある。その人こそが、伊黒にとって"全てを犠牲にしてもいいと思える相手"なのだ。
「…全てを犠牲にしてもいい相手?」
美雲の頭に浮かんだのは紛れも無い彼の姿だ。
「それは…、冨岡さん、です。恩人ですし…。」
その答えに伊黒はため息をつくように肩を少し下げた。
「恩人だからと解釈しているなら別にそれでも俺はいいが。自分にとって大切な存在は誰なのかは知っておくことだ。俺たち鬼殺隊に明日の保障はない。失ってから気付くなど愚かなだけだ。」
(…伊黒さん、カッコいい!彼に想われたら幸せね!きゅん)
甘露路はきらきらと輝かせた目を伊黒に向ける。その目に気付いた伊黒は頬を赤らめる。2人の纏う雰囲気は死と隣合わせで戦う剣士ではなく、仲睦まじい男女そのものだ。