第17章 芽生え -恋と蛇-
美雲を助けたあの技は、剣技を極め、精神をも鍛えあげた冨岡だから作り出すことが出来たのだと、技を学んでからより理解した。
「…まだ。出来ていません。」
「そうか。」
美雲の返事を聞いても、冨岡は表情を変えることはない。
なかなか習得出来ないことに落胆しているのか、それとも習得出来なくても構わないと思っているのか。その感情を読み取ることは出来ない。
期待に応えられない自分に落ち込んでいると、冨岡が言葉を続ける。あまりに脈絡のない話に少しぽかんとする。
「…腹は減ってないか?」
「へ?」
急に話を変えたことに美雲は驚いたが、当の本人は何も気にしていないらしい。
もしかしたら、冨岡なりに雰囲気を変えようと気を使ったのかもしれないと思うと、こころが温かくなる。
「そうですね、何か食べて帰りましょうか。あ、あそこのお店なんてどうですか?美味しそうな匂いがしてます。」
「…。」
返事はないが美雲の指差した店の方に身体を向けていることから、この店で良いとのことなのだろうと判断する。美雲は店の戸を開ける。
「2人、入れますか?」
「はい!こちらどうぞ!!」
ハツラツとした声を出す店主さんに案内された席につく。お品書きをスッと冨岡の方へ開く。冨岡はちらりと美雲を見たあと、お品書きに目を落とした。
「…白石は決めたのか。」
「ん〜、私は日替わり定食にします!」
「俺も同じものでいい。」
「はい!
すみませーん、日替わり定食2つお願いします!」
「はいよ!」
冨岡はお品書きをそっと片付けた。
美雲は卓上に用意されているお茶を湯呑みに注ぐ。それを冨岡に差し出すと、冨岡はそれを飲む。
屋敷でも一緒に食事を取ることが日常になり、そんなやり取りも互いに慣れたものだった。