第16章 読めない心
居間に膳を運びながら白石が声をかけてくる。
「お食事より前に湯浴み済まされますか?」
「いや、食事をいただく。」
「はい。準備出来てるのでどうぞ。」
膳の前に座る。刀を傍らに置き、羽織を脱ぐ。
「…頂きます。」
白石はにこにことしている。誰かに食事を用意して貰って、見守られるというのはいつぶりだろうか。
慣れない状況に少し戸惑いながら箸を進める。湯気の登る食事はとても美味しい。
「おかわりもありますので言ってくださいね。 …あ、」
白石はそこで言葉を止めた。視線は脱いだ羽織に向いていた。
「汚れてますね、洗いますよ。」
裾に少し血が付いていた。昨夜の任務で付いたものだろう。
「いや、あとで自分でやる。気にするな。」
「まだ洗濯の途中だったので、ついでです。ゆっくりお食事召し上がって下さい。」
白石はそっと羽織を手に居間を出て行った。
また部屋は静かになった。今まではそれが普通だった。もの一つ立たない屋敷で生活し、それが落ち着くとさえ思う。
今も同じ静寂なのに、屋敷のどこかに白石がいると思うと、この屋敷が華やいで見えた。
食事を済ませ、湯浴みをする。着替えて、廊下を進むと、シーツと共に半分ずつで柄の違う羽織が庭ではたはたと風になびいていた。