第14章 夜道の刺客
吹き飛ぶことは回避できたが、吹き荒れる風を全て受け流すことは出来ない。鋭く吹いた風は刃物のように美雲の体を斬りつけた。
手や足、体幹や顔など無数に切り傷を置い、ツーッと血が肌を伝う。傷は多いが致命的なものはない。
「おぉ、立って居られるとは感心感心。それもいつまで持つかな?」
鬼は笑みを絶やさず、また息を吸い込み、風を吹いた。身を引きちぎるような荒々しい風が吹き荒れる。しかし、美雲は倒れない。
鬼は何度も何度も風を吹かせたが、一向に戦いの終わりは訪れない。段々と鬼の表情が険しくなってくる。
「…クソッ!なんなんだ!なぜ死なない!!」
鬼は叫ぶと、これまでよりももっと深く息を吸い込む。頬だけでなく身体まで膨らんだようにも見えた。一気に吹いてくると、これまでよりも強く風が吹き荒れた。
焦る鬼に対して、美雲は冷静だった。
(…私が知ってる"風の強さ"はこんなもんじゃない)
鬼の技を受けながら、美雲はそう思った。鬼が作り出す風は、"彼の風"に比べればいささか弱く単調だ。
渾身の技をも受け流す美雲を見て、鬼は怒りを露わにする。
「私の風で多くの人間をねじ切り殺した!!力が認められ、今宵晴れて十二鬼月となったのだ!!私は強い!!さぁ、この風神様の前でひれ伏すのだっ!!!」