第14章 夜道の刺客
不死川に安静の念を押し、屋敷を後にする。あたりはすっかり真っ暗で、月が美雲を見下ろしていた。
鬼を警戒し、なるべくひらけた道を選び進んでいく。田んぼのあぜ道からは虫の鳴き声がする。夜風を感じながら、美雲は歩く。
「こんな夜更けに女性が1人でお散歩ですか?」
後ろから声をかけられ、肩に手を置かれる。
(…足音がしなかった)
一瞬で只ならぬ気配を感じ、日輪刀を抜き、距離を取る。
「おやまあ。鬼狩りでしたか。」
そこには男の姿があった。しかしただの男ではない。垣間見える鋭く尖った犬歯、怪しく光る2つの目玉。そして、今しがた人肉を喰らったと嫌でも分かる真っ赤な血のついた衣服。
(やはり鬼!肩に触れられるまで気配を感じなかった!)
強いかもしれないと、鬼への警戒を高める。刀を握る手にグッと力がこもる。
「お嬢さんに私が倒れるかな?この私が!」
ガッと目を見開いた鬼をみて、美雲は気づいた。鬼の目に、"下弦 陸"と映っている。
「…十二鬼月。」
美雲が呟くと鬼は満足そうに胸を張る。
「そう。私は十二鬼月。お嬢さんのような鬼狩りに倒せる相手ではない。どうだ、抵抗しなければ痛いようにはしない。さぁ、その命寄こせ!!」
伸ばした鬼の手を美雲は一瞬で切り落とす。ぼたぼたと血が流れる。
「…交渉決裂のようですね。後悔するがいい、神である私の前で!!」
そう言うと、鬼は空気を吸い込む。頬がふくらむ。次の瞬間、勢いよく吹いた。すると、嵐のような風が吹き荒れ、美雲は吹き飛ばされそうになった。咄嗟に刀を地に刺し、なんとかその場に留まる。