第14章 夜道の刺客
鬼はまた身体いっぱいに息を吸う。
「…十二鬼月になって喜んでいるところに水を指すようで悪いけど、」
美雲が刀を構え、鬼へと向かっていく。
鬼が溜め込んだ息を一気に吹き、強烈な向かい風の中、美雲は躱しながら瞬く間に間合いを詰めた。
「…"本当の風神"は自分を神なんて言わない。
雨の呼吸 玖ノ型 疾風の飛雨 (はやてのひう) 」
美雲の考えた雨の呼吸特有の細く幾重にも重なる雨のような斬撃に、風の呼吸を合わせることで威力は増し、方々から鞭の様に刃が敵を斬り刻む。
玖ノ型は不死川との稽古を通して、新しく作り出した型だ。
鬼は叫びをあげる暇もなく、首が落ちた。身体もばらばらになり、ぼとほとと地に落ち朽ちていった。
美雲は刀を振り下ろし、血を落とすと、鞘に収めた。技の精度はまずまずだ。
十二鬼月と言えど成り立てだったこと、そして使う血鬼術が風を使ったものだったのが不幸中の幸いだったと分析する。童磨はきっとこの程度ではない。
しかし、不死川に稽古をしてもらった事によって、自分の確かな成長を久方ぶりに実感できた。少しの嬉しさを感じる。
深呼吸を一度して、身体に負った無数の切り傷を癒やすために美雲は藤の花の家紋の家へ向かった。傷はぼちぼちあったが、美雲の足取りは軽かった。