第10章 圧倒的な力
力技で肩を整復した隊士は必死に刀を構えつづける。
しかし、失血で立っているのがやっとなのが見て分かる。構えた刀を振る力はもうない。鬼が迫っているのに動くこともできないのだ。
(…その根性嫌いじゃないぜェ)
風の如く走ってきた足を止める。鬼と隊士の間に立った。漸く戦いの場に着いた。ここに来て、多くの隊士が犠牲になったことを、ありありと目の当たりにする。
「…生き残ってんのはお前だけかァ?」
隊士に目を向ける。隊士が女だった事に少し驚いた。
鬼殺隊に入ったら男女なんて関係ないが、脱臼した肩を力技で押し込み整復するなんてこと、女がしているとは思わなかった。
血の気のない白い顔で女隊士は頷く。仲間が殺されていく状況は苦しかっただろうと彼女の気持ちを推し量る。仲間を失った苦しみは不死川も同じだった。隊士から視線を外し、鬼を睨みつける。肩越しで隊士に話す。
「肩の傷の止血が甘ェ。邪魔にならねぇ所で休んでろォ。」
顔色からしても重度の貧血状態。隊士は、足を引きずりながら離れていく。ふらふらと歩く姿が途中で力尽きないか見送る。木陰に座り込んだのを確認した。
「好き勝手やってくれたなァ。言い残す事はあるかァ?」
鬼に向かって口を開く。返答は求めていなかった。
鬼の汚い言葉なんて聞く必要ない。殲滅するだけ。その首に一気に斬りかかる。小賢しい技を仕掛けてきたが、風を纏う刃の前では無力だ。