第7章 色変わりの刀
美雲がせわしく出発した後、家は静寂に包まれた。
振り返ることもなく、目を合わせなかった美雲の気持ちは分かっていた。だからこそ、引き留めなかった。静かにその背中を見送った。頑張れ、と思わなかった日はない。
「…行ってしまわれましたね。」
鉄穴森が口を開く。
「あぁ。」
鱗滝は鉄穴森に顔を向ける。そして、持っている刀に目を向ける。
(この刃こぼれ…。美雲は厳しい鍛錬を繰り返していたが刀を粗雑に扱うようなことはなかった。鍛錬だけでここまで刃こぼれするだろうか…。)
頭で考えながら行き着くのは一つの可能性。
(水の呼吸が合っていないのか…。)
美雲の動きを思い返す。技の精度は悪くなかった。このまま実力を伸ばせば良い剣士になる。
「鱗滝殿…教え子が発たれるとやはりさみしいですか。」
無言で考え込んでいた鱗滝を見て、窺うように鉄穴森が声を掛けてくる。
「…いや。では、刀を頼む。」
気を遣わせる前に話をそこで切った。鉄穴森はその空気を読んでスッと立ち上がって鱗滝宅を後にした。
昨日まで、温かな空間だったその部屋はひっそりと静まり返る。そこにいるのは鱗滝一人。
一人で過ごす時間の方が長いはずなのに、子どもたちを見送った後の静かな部屋はいつも以上に虚しく感じる。
鱗滝は面を外し、静かに息を吐いた。