第1章 はじまり
握っていた手は繋がれたまま冷たくなっていた。
"死"という現実が確かにそこにはあるのに、父の表情は穏やかで、その姿をみると悲しみだけではなく父への温かな思いも溢れた。
(お父さん、ありがとう。私頑張るからね。見守っててね__)
間も無くして母も起きた。父の姿を見て、悲鳴をあげた。
どうして!どうして!と何度も父の身体を揺する。嘘つき!などと父を責め立てるように暴言も吐いていた。
私は取り乱す母にかける言葉が見つからなかった。
昨晩父と会話をする機会があった私とは違う。母にとっては、いつも通りの朝を迎えるはずだったのだ。最期の会話をすることもなく、父は旅立った。突然訪れた死を受け入れることは容易ではない。
昼を過ぎ、ようやく母は泣くのをやめた。まるで抜け殻のように父の亡骸の横に佇んでいた。
日も高くなり気温も上がってくる。父の身体にハエがたかる前に、父の身体を綺麗に拭いた。父が元気だった頃、よく来ていた袴に着替えさせる。あの頃ピッタリだった袴は今の父にはぶかぶかだった。それでも袴をきた父は、床に伏せていた姿から見違えるようだった。