第3章 あの子
リゾットside
夢主が来て暫くしたある日、俺は仕事中に負傷した。
大したことのない怪我だ。
帰ると、他のメンバーはどこかに出掛けていて夢主だけがアジトにいた。
『お帰りなさい!リゾットさ……』
夢主が俺の腕から血が出ているのを見て息を呑んだ。
『その怪我……っ…』
「仕事中に負傷した。よくあることだ。そんなに騒ぐことじゃあ…」
俺は驚いて言葉に詰まった。
夢主の瞳から涙が零れ落ちる。
何故泣くんだ。
たかだか出逢って数週間の俺が、少し負傷をしたからといって…
そんなに切なそうな表情で泣くのか。
夢主は俺の近くにくると、俺の腕にそっと触れた。
傷の部分が一瞬熱くなる。
『これで、少しすれば治るから。』
俺を手当てしたその小さな手は震えていた。
「何故、泣いてるんだ。」
『だって…っ…リゾットさんの仕事、ほんとに危険なんだなと思ったから。怖くなったの…。』
「………。」
自分でも無意識のうちに、その震える手を握っていた。
小さくて柔らかい手だった。
不意に、夢主が、俺の胸に頭をもたれてきた。
そして肩を震わせて泣いていた。
そっとその背中を抱く。
何故そうしたのかは分からない。
温かくて、驚く程小さい。
『あのね、私一度リゾットさんに助けてもらったことがあるの。』
「!俺が、お前をか?」
『うん。イタリアに来たばかりで、私はその時路地裏でナイフを持った男に襲われかけてた。そしたら突然その男の人がカミソリを吐き出したの。びっくりしたわ。ふと近くを見ると、真っ黒なコートの男性がいた。』
「まさか…」
『そう。それが貴方。』
思い出した。
そう言えば去年…そんなことがあった。
暗闇でその女の顔はよく見ていなかったが、まさか夢主だったとは。
『その時からね、私その命の恩人をすごい探していたの。最初に言わなくてごめんなさい。』
そう言うと、夢主が顔を上げて俺を見つめ微笑んだ。
この時俺は
夢主を、この世の全ての残酷なものから守ってやりたい。
そう、強く願ってしまった。