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君に届くまで

第84章 新たな拠点、新撰組




それから暫くして、遠くで鐘が鳴っているのが耳に入る。
音は四つ。つまりは亥の刻となる。
現代でいう午後八時から午後九時頃だ。

「そろそろ止めにするか…。」

土方は凝り固まった体をほぐす様に体を伸ばしてから立ち上がる。
夕食はそれぞれの都合もあり、ばらばらに摂ることが多い。その為、当番の者が握り飯と漬物を作る決まりだ。
土方は食事を摂るべく外に出ようと障子を開けようとした。
その前に、すっと開いて少し驚いて身を引いた。

「あ、すみません。お出かけですか?」

堀川だった。彼は、少し硬い表情で笑う。
土方は、先ほどと様子が違うことに引っかかりを覚えた。

「何があった?」

「あ、いえ…。その、レンさんに会わなかったかな、と思いまして…。」

「レン…?いや、こっちには来てないぞ。」

そもそも、レンは山崎と一緒だった筈。山崎は既に帰ってきており、報告の最中、何も言ってはいなかった。
つまりは、レンは一緒にここまで帰って来たのではないだろうか。

「そう、ですか…。すみません、お手間を取らせてしまって。」

「待て。レンは戻ってないのか。」

土方は、急いで踵を返そうとする堀川を止めた。
彼は肩を掴まれたことで動きが止まり、少し驚いた様に土方を見上げる。次いで、分かりやすく瞳がしどろもどろに揺れた。

「どこに行ったかも分からねえのか?」

「あの…、その…。…はい。」

堀川は誤魔化すことが出来ずに肩を落とした。
それを見た土方は眉根を寄せる。
レン程の腕を持っていれば、不逞の輩から身を守れるだろう。
だが、万が一という事がある。

「…誰が動いてる?」

「僕たちだけで探してます…。言うに言えなくて…。」

土方は一つため息をつく。
これを聞いて、放っておく気にはなれなかった。

「俺も入るぞ。」

「え、土方さんも、ですか?」

「何だ、まずい事でもあるのか?」

戸惑いがちに見上げた瞳はみるみる内に輝きへと変わる。

「…いいえ!ありがとうございます。」

まるで子犬の様な変貌に、土方は一瞬言葉を詰まらせる。

「ほら、行くぞ。」

「はい!」

二人は他の刀剣達と合流すべく、部屋へと向かった。

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