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君に届くまで

第84章 新たな拠点、新撰組





ボーン、ボーン、ボーン…

時報代わりの鐘の音が七つ響く。


「今日はここまでにしましょう。」

山崎はそう切り出して、皆で邸へ引き返すべく踵を返す。
京の町は碁盤の目の様に規則正しく並んでいて、どこもかしこも似たり寄ったりの道だった。
レンは今日案内された街並みを懸命に思い出しては反復する。

終始無言で戻ってきた三人は、邸へ着くと挨拶もそこそこに戻っていく。
レンは、真っ直ぐに部屋には向かわずに違う通路を選ぶ。
内部構造を細かに覚える為だ。
伊東の縁者らしき者にすれ違うたび眉を顰められるが構わず会釈をして通り過ぎる。
ふと、竹刀の打ち合う音を拾い、そちらへと足を向ける。
近づくごとに木刀の音も聞こえる事から鍛錬しているのだろうと予想がつく。

視界が開け、砂利の引かれた庭の様な場所に出た。すぐそこには道場の様な建物もある。
中と外には人が溢れていて、皆、手には竹刀か木刀を持ち、二人一組で撃ち合いをしていた。

「止め!!」

「今日はここまで!!」

沖田と藤堂の掛け声に一斉に打ち合いが止まる。
そして、各々手拭いや竹水筒を取ったり、近くの者と話をしながら片付けを始めたりと動き始める。
人々の動きを追いながらも、レンは自然と二人の姿を探していた。

―清光…、安定…。

ふと、彼女の視線がぴたりと止まった。
人垣の向こうの道場の中。
彼らは楽しそうに沖田と話している。
その顔は、レンと話している時に見せる嬉しそうな顔で…。

つきん、と胸が痛んだ気がして少し驚いた様に自分の胸を見た。

―どうしたんだろう…。

何故、二人の楽しそうな姿を見て胸が嫌な痛みを伴うのか。彼女には皆目検討がつかない。
つかないが、それを誰かに相談しようとは思えなかった。そう思う事を言いたくないし、知られたくなかった。
何故、という疑問ばかりが痛みと共に胸を締める。

レンはそこに留まる気になれず、そそくさと後にした。

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