第8章 サイレント・ガーデン
「…ちっとも変わってないんやね」
四番隊の特殊救護室。此処での療養生活はまだ終えられそうにないが、卯ノ花隊長の許可を得て少しずつ三番隊の残務処理を行い始めて早二日目。五番隊から三番隊へと回ってきた書類にくすりと笑みを零した。私と藍染隊長に散々いじられた後、私と共に藍染隊長に書道を習い始めた筈なのに、いま目の前にあるその字はちっとも上達していない。百年前の、あのままの字だった。ふにゃふにゃでミミズのように繋がった字。時折遊ぶように鏡文字が書かれていて読みにくい文体。最終的に総隊長が目を通す割と大切な書類であるというのに、これでは書き直しになるだろう。懲りない人だ。
「イヅル、悪いんやけどこれ五番隊にお返ししといて」
隣に簡易机を設置して同じく残務処理をしていたイヅルに手渡すと、その書類を見てイヅルが溜め息を吐く。
「?…、ああ、また平子隊長ですか。あの人も諦め悪いなぁ」
「ん、それどういう意味なん?」
「市丸隊長に直接持ってきて欲しいんでしょう。僕が届けに行くといつも決まって拗ねますから」
「………ほんまあの人、変わらんなァ」
何度も書き直す方が手間だろうに。幼稚でわかりにくい、けれど不器用で可愛らしいあの人のメッセージに、少し照れくさくなる。雛森チャンも大変やねと笑って、にやける顔を誤魔化した。
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文字のあれこれ、ちょっとかじっただけで割と適当ですので信じないで下さいね!
サイレント・ガーデン