第8章 サイレント・ガーデン
ギャーギャー騒ぐ隊長を放置して藍染サンは片付けをする。相手にしなくて良いよと呆れ顔で私に告げた藍染サンに、片付けを手伝いながらこくりと頷いた。彼は平子隊長をあしらうのが上手い。じっと観察していると、穏やかな笑みを向けられる。こういう、何気ないやり取りも、彼にとっては演技なのだろうか。私にはまだわからない。
「あーもう!俺はええとして、ほな市丸の字はどうなんや藍染先生!?」
「愛美の字ですか。そうですね…、筆圧は強いので芯は固いでしょう。止め跳ね払いが曖昧で字はやや右下がり。協調性の高さや包容力が見られる反面、秘密主義なところもあると言えますね」
「…心理学の先生みたいや」
藍染大先生の分析には頭が上がらない。あまりの的確さに苦笑を零すと、あまり一人で抱え込んではいけないよと藍染サンに諭される。(誰の所為だ、)苦々しい気持ちで彼を見上げると、口元が少し歪んでいた。…分かっていながら言っている。つくづく、意地悪な人だ。
「むー。ほんなら、お返しに、私が藍染サンの字ィ分析したりますよ?」
「分析いうてもなァ、惣右介の字は教科書のお手本かっちゅーくらい完璧やんけ」
「そない言うなら平子隊長から分析したりますわ」
「おーおー、やれるもんならやってみ。お前に出来るわけあらへんやろ」
人を馬鹿にするような顔で平子隊長が私を鼻で笑う。イラっとする心を抑えつつ、先程私の字を分析した藍染サンの着眼点を思い出す。
「平子隊長ん字は、ふにゃっとしてて読みにくい。適当で緩くて喰えん性格がよう表れてはりますねぇ。ほんで右肩上がりやから、ワガママで意地悪。総じて大人気ない幼稚な性格やね」
「シバいたろかこのクソガキ!」
「なかなか良い分析じゃないか、大体当たっているね」
「惣右介!?」
一人慌ただしい平子隊長と、悪ノリしてくれる藍染サンの姿に、気づけば自然と声を出して笑っていた。そんな私を驚いた様子で見た彼らは、二人して大人の顔で微笑むのだった。