第3章 肺呼吸の不得手な君へ
六番隊もだ。朽木サンの孫が確か市丸と同じくらいの歳だったから、放っておけなかったのかもしれない。十三番隊は隊長が浮竹サンだから言わずもがな。鬼道衆が異色すぎる。あそこはあまりスカウトをしない。というより、そこまで人員を欲していないし、それに見合う実力を持つ者があまり現れない。そんな鬼道衆からスカウトされるとは、市丸の鬼道の才はそれほど輝いているということだろうか。
「そない声かけられとって、何でウチに入ったんや。お前ならどこ行っても上手くやれるやろ」
探る色を見せないように、あくまで軽い口調で言う。
「藍染サンの熱烈な勧誘に根負けしたんです。…せやけど、平子隊長がおったから、いうんもあります」
「は、」
にこにこと笑いながら、市丸はのんびりとそう言った。
「何や、俺のこと知ってたんかいな」
「隊長、一年前に霊術院で教鞭とったん覚えてはります?あん時、私受けとったんです」
一年前、確かに霊術院で生徒に何らかの授業をした。何を教えたかはいまいち思い出せないが、面倒臭い仕事だと思っていたのは覚えている。その時にこの少女がいたとは。
「ちなみに、隊長ん講義、生徒には不評やったで」
「やかましいわボケ!」
それはそうだろう。面倒臭いと思っていたし、テキトーにその時間を終えたはずだ。それが全面的に出ていたのであれば、勉強熱心な生徒には不満が残ったはずだ。わざわざ言ってくれた市丸をじとりと睨みつけた。言わんでもええがな。くすりと笑みを零した市丸は、せやけど、と続ける。
「面白そうな人やなァ・て思うて、平子隊長んことはずっと覚えてました。それから、その髪やね」
「髪?」
「綺麗な金色やな思うて忘れられんかった」
宝石のように綺麗な水色の瞳を覗かせて微笑みながら、市丸は口を閉じた。面喰らう。思いもしなかった理由にも、今の微笑みにも。子供とは思えない艶。大人びた奴だとは思っていたが、まさか、そんな顔ができるとは。
「…末恐ろし、ほんま」
「何がです?」
「いや、何でもあらへん」
溜め息をひとつ吐いて、その小さな頭をわしわしと撫でてやった。キョトンとした顔がまだ幼さを感じさせ、やっぱりまだ子供だと安堵する。