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徒花まみれの心臓【BLEACH】

第26章 こんな僕では君を掬えない




市丸愛美という、藍染と共に去ってしまった女を思い出そうとする。あの女の刀からは、何も伝わってこなかった。俺と対峙していたはずなのに、俺ではないどこかを見ていて。ちぐはぐで下手くそな笑い方をする奴だと思う。なのに、その顔だけが、どうしても思い出せない。苦しそうな笑い方をする女だということは確かに覚えているのに、靄がかかったように、その顔を思い出すことは出来なかった。


その女が、いま、此処にいる。


「任務完了やて。帰りましょ」


「…邪魔すんな市丸……!」


蒼髪の破面が霊圧を上げ、俺に斬りかかってこようとしたその瞬間、懐かしい霊圧を感じた。刀を抜かんとするその手を制し、突如現れたその存在に、動揺してか虚の仮面が消えて行く。再び会える事を望んでいたはずなのに、その再会はあまりにも突然で、呆気ない。確かに言おうと思っていた言葉が、出てこない。


「邪魔言うてもなァ…ボロボロやん」


「っ、今から本気出すところだったんだよ!お前が邪魔さえしなければな!」


「どうどう、興奮しなや。今回は大人しく帰ろて、な?」


「チッ……」


俺のことが見えているはずなのに、まるで気付いてないとでも言うように、ちらりとも此方を見ない。その態度にムカついて、破面と仲良く話している様子にモヤモヤして、気づけばその名を叫んでいた。


「ッ市丸!!」


ぴくりとその肩を揺らして、漸くあいつが俺を見る。百年前よりも随分と大人になった。白銀の髪がさらりと風に揺られる。俺を見る目からは、何の感情も読み取れない。


「…お久しぶりですね、平子隊長」


にこり、と。笑みを深めた市丸に、その癖は変わっていないことを知る。自分を押し殺そうとすればするほど、笑みを深めようとする、こいつの分かりにくい癖。


「…お前、何で藍染のとこおんねん。何で裏切ったんや」


ずっと訊きたかったこと。どうして市丸が、藍染に味方するのか。その表情のごく僅かな変化でさえ見逃さないようにと、見据える。(本当に、大きなったなァ、)



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