第3章 穹を蒼とするならば
「…市丸隊長のこと、愛美隊長って呼ばせて戴いても宜しいですか?!」
「ええよー」
私が思い切って言うと、いともあっさり許可を出してくれた。ちょっとノート貸してくれない?うんいいよー。そんな軽いノリで返されて少し拍子抜けというかなんというか……こうもあっさりだなんて、意外だ。
「あ、有難うございます!」
「礼を言うてもらえる程んことやあらへんのになァ。他隊の子に慕ってもらえるんは嬉しいで。…ほな、私は日番谷クンを待たせてるからまたな。今度、一緒に鬼道ん特訓しましょ。ほなあね、雛森チャン」
「はい!」
藍染隊長と同じくらい憧れているあの愛美隊長が、名前呼びを許可してくれた。嗚呼、今日はなんて幸せな日なんだろう!この際もう、日番谷君が愛美隊長を(私から)奪ったなんてどうでもいい。
「特訓しなきゃ」
次に愛美隊長と一緒に特訓をする時までに、もっともっと威力を上げておかなければ。私がまだ知らない鬼道を習得して、愛美隊長に完璧な鬼道をお見せして。そしたらきっと、愛美隊長は優しい微笑と共に褒めてくれるんだ。そして…今度は、図々しくもお茶に誘ってみよう。
「乱菊はおらへんの?」
「松本ならサボりだ」
「ありゃりゃ……、性懲りもなくまたサボったんかいな、乱菊」
お前が言えることかよと言ってしまいそうになった口を慌てて閉じる。そうだ………こいつは、自分に与えられた仕事はちゃんとする奴だ。仕事をしたあとにふらりと放浪する癖があるから厄介なだけで……。幼馴染みが迷惑掛けてごめんねと謝ってくる市丸を一瞥し、大袈裟に溜め息を吐いて言う。
「……別に、お前が謝ることじゃねえだろ。それに今日は、松本はいなくていい」
「なんでやの?」
「……秘密だ」
“お前を独り占めしたいから”なんて、死んでも言えるか。今日はいつも一緒にいる六番隊隊長の朽木が任務で不在だ。いつもこいつを独占してやがる朽木がいないんだ……その間くらい、俺が独占したって罰は当たんねえだろ。
「日番谷クン、怖いくらい眉間に皺寄ってるで。まーた難しい考え事してはるの?」
人差し指で俺の眉間を突っつき、顔を覗き込んでくる市丸。その顔の近さに、綺麗さに、驚く。