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徒花まみれの心臓【BLEACH】

第25章 うつろう絶望へ




そうして、彼女が二重スパイとして生きて来た日々の話をただ静かに聞いた。彼女が藍染サンに従う目的も、総隊長の目的が彼女に与えた任務も、藍染サンに情を覚えてしまったことも、全て赤裸々に話してくれた。幼馴染である松本乱菊の奪われた物を取り返したいという目的に総隊長が大義名分をくださっただけだと、私欲のために僕達を見捨てたのだと、彼女は言うけれど。きっと彼女は、幼馴染のことがなくとも、この任務を受けていたのではないかと思う。そして、不自然なほどに触れられない彼のことに、敢えて踏み込む。触れられたくないのだと、知っていながら。


「平子サンのこと、知りたくはないんスか」


「………、」


「アナタは彼を随分と慕っていたように僕は思ってたんスけどねぇ」


「……元気にしてくれはってたら、それで良いんです」


平子サンの名前を出した途端、分かりやすいくらいぐらついて。その様子を見ただけで、彼女がこの百年どんな思いで過ごして来たのかを察する。どんな気持ちで平子サンを見捨てたのかなんて、訊くだけ野暮だ。(愛されてますねぇ、平子サン)あの人もあまり自分のことを話さない人ではあるが、随分前に打ち明けてくれた、この子への気持ちを思い出す。複雑な思いはあれど、彼の大部分を占めていたのは。


「心配、してますよ。アナタのことを、あの日からずっと」


「………っ」


「信じてるんスよ、アナタのことを」


背中を震わせ、彼女が静かに涙を零す。その姿がいじらしくて、思わずその身体を抱き締めた。(頼ってくれれば良かったのに)松本さんの魂のことも、藍染サンの危険性に気付いていたことも、僕に…平子サンに打ち明けてくれていれば良かったのにと思わずにはいられない。そうすればこの子は、こんな重い任務など背負わずに、心から笑える未来を過ごしていただろうに。


「もう、一人で頑張らなくて良いんスよ、アナタは。僕がいますから」




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