第22章 仕様のない既視感が首を絞める
「あの子ね、昔から治らない悪い癖があるの。行き先を告げずにどこかへ消える悪い癖。……でもね、あの子は何も残さないの。自分がいた痕跡全て、消してしまうのよ」
そんなあの子が、物を残して行った。信じられない。けれど、吉良が大切そうに抱えているそれは、紛れもなくあの子の隊首羽織で。(あんた、吉良の真っ直ぐさに負けたのね。こういう真っ直ぐな子に、あんた弱いもんね)
「僕は市丸隊長を信じます。きっと、僕達を裏切ったことには、何か理由があるのだと。隊長が望んだことではないと、信じます」
言って、静かに吉良が笑う。その瞼は腫れ上がっているし、顔色も良くない。きっと、眼が覚めて事の成り行きを知って、たくさん泣いたのだろう。あの子を信じると言い切ったその強さに、笑みが零れる。うじうじしている自分が情けない。
「…あんた、ちょっと愛美に似てきたわね」
その笑い方も、隠れて泣くところも、あの子によく似ている。
「---悪いが…俺は、まだあいつを信じられねぇ」
ポツリと、日番谷隊長がそう零す。
「ずっと信じようとしてた。けど、あの夜にあいつと刀を突き付け合って、…信じられなくなっちまった」
日番谷隊長の言うことも最もなのだ。加えて彼は、大切な幼馴染を利用された。あの子をそう簡単にまた信じようとは思わないだろう。けど、と続けた隊長は、迷っているようにも見えた。
「……わかんねぇんだ」
顔を歪めて、日番谷隊長は言う。
「俺と雛森は確かに瀕死の重体だった。いくら卯ノ花隊長が治療してくれたとはいえ回復が早すぎる。…俺の斬魄刀の柄に付いている鎖から、僅かだがあいつの霊圧を感じた。多分、あいつが何か仕込んだはずだ」
そう、重傷だった日番谷隊長と雛森の命を繋ぎ止めたのは、愛美らしい。恐らく朽木隊長の怪我を回復させたように、媒体に霊圧を込めていたのだろう。どのタイミングで仕掛けたかということについては私は知らないが、隊長には思い当たる節があるらしく、だからこそ迷っていて。