• テキストサイズ

徒花まみれの心臓【BLEACH】

第20章 きみの最低を忘れない




何故貴女が日番谷隊長の憎しみを一身に受けようと振舞っているのかは分からない。けれど、隊長は、意味のないことはしない人だ。何か、僕にも言えない、考えがあるのだろう。


「ハァ……これは想定外やわ。イヅルには敵わんなァ」


お手上げ、と言わんばかりに両手を上げてプラプラと振る隊長に、少し得意げに口元を緩める。


「---全部を言うことは出来ん。せやけど、そうやな、イヅルにはちゃんと伝えとかなあかんか…」


回道での治療を終えた隊長に礼を述べ、その口が開くのを待つ。


「私な、しばらくここ空けるんや。戻ってこられん可能性が高い。せやから、身辺整理は今ん内にしとこ思うてな」


「……任務か何か、ですか?」


「ん、そない感じやね」


あくまで冷静であるように努める。本当は、声を大にして問い詰めたい。戻ってこられない可能性が高い、とは。それほど危険な任務なのだろうか。副官である僕にさえも教えてくれないような、極秘任務なのだろうか。


「…生きて戻って来て下さい」


お願いですから。言って、烏滸がましいとは知りながら、その手を包む。市丸隊長は、それには何も応えてくれなかった。ただ、いつものように優しく、泣きそうな顔で、微笑む。


「イヅル。ごめんな、イヅルにはこれから辛い思いさせることになる。私はもう側にはおられへんから、しっかり一人で踏ん張りィ」


珍しくその綺麗な瞳を覗かせて、隊長が笑う。(嗚呼、覚悟しているんだ、)何かを覚悟している。三番隊の隊長という座を捨てようとしているのだと、悟ってしまった。それが酷く悲しくて、涙が出そうになる。


「僕を置いて行くのですか」


「……せやね」


「何も残さず去ってしまうのですか」


「うん、」


「……本当に、貴女は、残酷だ」


項垂れる。恐らく僕が何を言っても無駄なのだろう。この人はどこか遠くへ行ってしまう。手の届かない所へ。そしてもう戻ってくるつもりは無いのだと言う。そんなの、嫌だ。僕は貴女が良い。貴女に憧れてきたから、ここまで上り詰めたのに。泣き言を言う僕を、隊長はそっと抱き締める。その身体の細さに、小ささに、また胸が苦しくなる。この人はいつだって、小さな身体に抱えきれぬ重荷を背負っている。


/ 135ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp