• テキストサイズ

徒花まみれの心臓【BLEACH】

第12章 Hole in my heart




彼だって決して死神が嫌いなわけではない。ただ、もう諦めてしまっているだけ。自分を理解してもらうことに諦めて、真っ暗な孤独に囚われてしまった人。彼が今、心のどこかで少しでも楽しめているのなら……それはとても喜ばしいことだ。この場所の温かさに彼が気付いて、近々実行されるであろう反逆を断念してくれればいいのに、なんて。ありもしない希望を抱く。


「……市丸……隊長、何してんすか、そんな所で」


「六番副隊長サンやん。ええやろ、一人で月見酒やで」


呆れたようにあんたねぇと溜息を吐きながら屋根を登り、私の隣に座る彼。しかし……彼に月って驚くほど似合わない。


「いつの間にこんな所に……、さっき日番谷隊長が探してましたよ」


乱菊さんが手に負えないからどうにかしてくれって嘆いてたっすよと彼が言い、それを聞いて私も少しだけ苦笑い。乱菊の酒癖の悪さは良く知っている。実を言うと、あの乱菊にはあまり近寄りたくないのだ。十番隊長サンには悪いが、聞かなかったことにする。とくとくとお酒を注いで彼に差し出すけれど彼はもう飲めないと言って断った。それを私がちびちびと飲んでいると、彼が徐に口を開く。


「……市丸隊長はどうして、…あの人から離れちまったんすか?」


つい先日だ。二番隊長さんに同じようなことを訊かれたなと笑みを深める。この彼の場合は、六番隊長サンに限った話だけれども。


「…それ、六番隊長サンのこと言うてる?特に深い意味はないで、そろそろ離れなあかんなて思うただけや。せやから彼はなぁーんにも悪ないし、君が気にする必要もあらへんの」


言って、更に微笑を深める。この彼はついこの間副隊長になったばかりであるはずだ、確か。朽木ルキアちゃん関連で何やらあるらしく、この彼は自身の上司をあまりよくは思っていないような気がしていたのだけれど、こうして今この瞬間、本意は図りかねれど確かに自身の隊長のことを気にかけている。不器用で、優しい子だ。いつかきっと、六番隊長サンの優しさに気づけるはずだ。気付いて、支えてあげて欲しい。心の奥底で零れた本音をお酒と一緒に飲み込んで、夜空を仰ぐ。



/ 135ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp