第11章 それは哀しみの雨
嘘ではないのだろうと、砕蜂は直観で分かっていた。いつからか此奴は言葉遊びと胡散臭い笑みで全てを煙に巻くようになってしまったけれど、それでも、平子真子の影を追って静かに涙を流していた此奴は、本物だと知っている。私と共に、過去に囚われ進めなかった姿を知っている。それは絶対に、嘘ではなかったはずなのだ。どうして棄ててしまった。進めなくてと良い、私の様に憎しみに変わっても良い、何だって残るだろうに、何故棄ててしまったのだ。どうして、何事もなかったかのようにしてしまうのだ。
(貴様は本当に愚か者だ、愛美。貴様の変化がどれほど多くの者に影響を与えたか、貴様は知らないのだろうな)
自分をとことん卑下し他人のことばかり気にかけ、自分のことを決して顧みない。愛美は昔からそういう馬鹿な奴だった。他人を優先しすぎるあまり自分のことが疎かになり、そして自分のことに疎い愛美。その優しさに、その健気さに、その脆さに、どれほど多くの者が魅了されていたことか。その美徳を、大切なものを、進むために棄ててしまったのか。
「……雨、ひどなってきはりましたね」
暗い空を見上げ何となしに呟いた愛美が、何故か今にも消えてしまいそうに見えて。
「行くぞ」
―――…手を掴んで引っ張り、歩く。
「二番隊隊舎で茶を持て成してやる。先日浮竹から貰ったのだが、あの茶は甘すぎて飲むに耐えん。貴様なら飲めるだろう」
「……優しいな、ほんま」
「フン、戯言を」
隊首羽織がヒラリと風雨に舞い、露わになる。二番隊の琥珀と三番隊の白殺しが重なって離れ行くのを静かに見つめ、いつか本当に愛美がもっと遠い所へ離れて行ってしまうのではないかと、目を伏せた。
それは哀しみの雨
(泣かぬ貴様の代わりにきっと、)
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砕蜂さんはツンデレお姉さん。いい人なんだけど厳格すぎるな、程度。
対する砕蜂さんは、成代主人公がよく分からない。よく分からないのに惹かれるから更によく分からない=よく分からなくさせる原因…ごちゃごちゃ。