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徒花まみれの心臓【BLEACH】

第11章 それは哀しみの雨





雨滴が全てを浄化してくれる。流してくれる。雨音が全てを掻き消してくれる。真実を隠してくれる。実際そんなことあるわけがないけど、そう思い込むことで少しだけ救われるのだ。


「……………………愛美」


「、」


不意に名前を呼ばれ、思わず息が詰まる。私が全てを棄てたあの日から、今までとは打って変わって誰もが私を気味悪がり敬遠するようになっていった。勿論彼女も例外ではなくて。それなのに、どうして今更私の名を呼ぶのだろう。


「……何を失くしたのだ、貴様は」


お前も、どこかへ行ってしまうのか。


---彼女の心の叫びが、手に取るように分かる。彼女は変化を恐れている。私が全てを棄てたあの日から、もう何十年経つだろう。最初は戸惑って、私をどうにか元の私に戻そうとしていた人達も、今ではもう諦めてしまって。今の私に慣れて、そうして、遠ざける。少し意外だったのは藍染隊長だ。あの人はきっと私がケジメをつけたことを喜ぶだろうと思っていたのだが、微妙な顔をした。喜んでいるけれどその実残念がっているような、綯交ぜになった顔をしていた。今ではあの人も、今の私に慣れてしまっているけれど。


「…失くすも何も、最初から何も持ってへんよ」


「ふざけるなよ愛美。松本乱菊や平子真子、そして朽木白哉への想いが嘘だったとは言わせん」


些細な表情の変化すら見逃すまいと云わんばかりに鋭い瞳で私を射抜く彼女の頭を少し撫でる。身長が同じくらいだから手を伸ばしやすい。案の定直ぐ様振り払われてしまった手をゆっくり降ろし、人を喰ったような微笑を保ち続け吐き捨てた。


「失くしたんやない、棄てたんよ」



「……………何故」


「邪魔なモンやったから」


口元に弧を描く私とは対照的に、どうしてだろう、彼女が泣きそうな顔をする。


「………―――馬鹿者が」


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