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徒花まみれの心臓【BLEACH】

第9章 想い人、圏外




明らかに一人分の仕事量ではない。三席といえど、子供にこの膨大な量の仕事を課す者など、五番隊にいただろうか。もしかしてその才能故にいじめられているのでは、と考えたところで、市丸が苦笑を零す。


「ふふ………隊長、多分やけどそれ勘違いや。五席のお子さんが何や体調崩して危ない状態らしいんですわ。せやけど自分の仕事投げ出せんで困ってはりましたんで、代わりに私が引き受けただけです」


市丸愛美という神童は、いつだってそんな奴だった。何だかんだで他人優先で、自分を蔑ろにして、利益を顧みないお人好し。少なくとも、俺の知っている市丸はそんな奴だった。


(もしまたあいつに会えたとして。それが敵として会うた時だったら、俺はあいつに斬りかかることができるんやろか)


「隊長、…ごめんなさい」


市丸が藍染達と去っていく前、俺だけに聞こえるように囁かれた謝罪の言葉。何が“ごめんなさい”なのかが分からない。単純に、裏切ったことに対する謝罪なのだろうか。それとも他に何かあるのだろうか。ただ、一つだけ言えることがあるとすれば、


「あいつ……手ェ震えとった」


意識が失くなる前―――最後に見えたのは市丸の顔ではなく、白くて小さな、震えた手。そしてその手は、震えを誤魔化すかのように次の瞬間には握り締められていた、これだけは鮮明に覚えている。どうして手が震えていたのかなんて、考える間もなく分かる。藍染についた理由が何であれあいつは、―――市丸は、俺のことを確かに慕ってくれていたのだろう。俺の自惚れだとどんなに罵られようとも、これだけは真実だと信じたい。


「…あいつ……大切なモン、増えてるんやろか」


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